”ストロベリーフィールズ” 凱旋上映会から5年。 [●「朝日のあたる家」序章 2012]
2011年 夏
前作「ストロベリーフィールズ」
ロケさせたもらった中学校の先生から暑中見舞いを頂いた。
感激!5年前の話を思い出す。
その先生のクラスの生徒たち学級会で突然
「太田監督に学校に来てもらって、授業をしてほしいです」
と言い出したというのだ。
その先生。駄目もとで僕に電話
「生徒たちが『ストロベリーフィールズ』を見て感動して、
授業で監督の話が聞きたいというんです」
幸運にも当時、地元で、凱旋上映会&監督講演会の準備が進んでいた。
伝えると先生
「学年全員で映画を見れるように職員会議で検討します!」
といってくれた。
結果、その中学校の1年生全員が凱旋上映会に参加!
「ストロベリーフィールズ」を見てくれた。
翌日、僕はその学校で特別授業をさせてもらう。
自分たちが住む町の素晴らしさ。そして友達の大切さ。
映画で伝えたかったことを話した。
子供たちの真剣な顔。今も忘れない。
当時、その凱旋上映を提案してくれたのが地元高校の先生。
その方からも先日、手紙を頂いた。
「今、僕のクラスには5年前の凱旋上映を見て、監督の特別授業を受けたという生徒がいます。
あのときの授業が凄く印象的で、今も覚えているといってました」
当時中学1年の生徒、今は高校2年生だ。
5年後の今も、子供たちは自分たちの町で撮影された映画「ストロベリーフィールズ」を、
そして僕の特別授業を今も覚えていてくれる。
自分たちの古里が美しい町であることも伝わっていたようだ。
凱旋上映が行われてから5年も、経った今なのに。
とても嬉しい。
(つづく)
ストロベリーフィールズ監督日記
http://t-ota.blog.so-net.ne.jp/
お見舞いの品。感謝です。 [●「朝日のあたる家」序章 2012]
自宅入院生活は続く [●「朝日のあたる家」序章 2012]
2011年 夏
1本の映画を完成させるというのは、本当に戦いだ。
終わったときに、残るのはボロボロの体とズタズタの心だけ。
そんな訳で毎回、過労で倒れ2ヶ月ほど寝込む。
すでに、恒例の2ヶ月は過ぎたが、体調はよくならない。
やはり、50歳が近づくと回復が遅いのか?
或いは、それほど今回の戦いが凄まじいものだったのか?
前作”ストロベリーフィールズ”も非常に評判はよかったが、
今回の”青い青い空”はそれを上回る反響があった。
映画の後半戦は、観客の誰かが泣いていたほど涙の連続。
ラストには試写会でも、公開中でも、拍手が起こった。
友人や関係者ではなく、一般の観客が映画を見て拍手するというのは
日本ではめったにない反応。高い評価だと思えた。
それだけに作品を作る労力も、大変なもの。
過労で倒れるどころか、過労死してもおかしくなかったのかも!
ただ、毎度のことながら、
映画を完成させても力石徹のように”終わったーーーー・・”
という充実感がなく
矢吹丈のように、真っ白に燃え尽きることもなく、
後悔と反省ばかりが、心を駆け抜けて行く。
何ヶ月も続く自宅入院生活。
いつになれば復帰できるのか?
(つづく)
死んで行く子供たちに、何を伝えればいいのか? [●「朝日のあたる家」序章 2012]
2011年 夏
原発事故について調べた。
チェルノブイリ事故を見れば、放射能の恐怖が良く分かる。
なのに、この春から夏に日本政府がやったことは何か?
福島第一原発の爆発事故。
放射能が放出されていないのに、それを伝えていなかった。
メルトダウンしていたのに、していない!と言い続けていた。
法律で決まっている年間の被曝料1ミリシーベルトまでという上限を
20ミリシーベルトに引き上げようとした。
子供は大人の4倍の被曝をする。
なのに、20ミリシーベルト!!!!?
SPEEDIで放射能拡散の方向が分かっていたのに、それを伝えず
風上に多くの市民を避難させて、
被曝させてしまった。
放射能に汚染された土地が分かっているのに、避難命令を出さずにいた。
セシュウムにしても、プルトニュウムにしても
何ヶ月も経ってから、検出されました!と伝える。
放射能で汚染された野菜がたくさんあるのに、
”食べて応援!”
と言って日本中で食べる運動を続けている。
まだまだあるが、何と言えばいいのだろう?
放射能はとても危険なものなのに、政府は国民を避難させるより
被曝させることに努力しているように見える。
火事で燃え盛る家に多くの人を閉じ込めて、
安全です。大丈夫です!
と言い続けているように思える。
一体、どうなってるんだ!!!!!!!
なぜ、そんなバカなことを続けるのか?
そして、テレビを中心とする多くのマスコミもそれを伝えようとしない。
本当のことを報道しない。なぜか?
この辺の謎。原子力発電所はどんなふうに推進されて来たか?
それを勉強すると、答えが見えて来た。
(つづく)
2012-09-02 10:00
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子供たちが死んで行く、チェルノブイリの現実 [●「朝日のあたる家」序章 2012]
2011年 夏
放射能は怖いものであること。
それは分かっていた。しかし、どのように怖いのか?
具体的には知らない。調べてみた。
参考になるのは、チェルノブイリ事故で起きたこと。
原子力発電所から飛散した放射能により、多くの人が被曝。
同時に、土地も畑も、家も、森も、みんな汚れてしまい、
そこで採れた作物も汚染され、食べた人たちは内部被曝した。
高濃度の放射能を浴びると、人は数時間で死んでしまうが
低濃度であれば、即死することはない。
だが、年月をかけて様々な病気を誘発する。
事故後に激増したのが白血病、癌、心不全。
産まれて来た正常な子供は15%に過ぎず、他は先天的な異常を持っていたり
奇形児であったりしたらしい。
事故後、産まれた子供たちは30歳前に亡くなり、
現在、チェルノブイリ近辺の街では、10代から20代の人がほとんどいない。
いても、病院から出られない。
また、大人でも事故後20年経ってから白血病を発症。死亡することもある。
この辺の話。本や雑誌だけでなく、
映画”カリーナの林檎”のスタッフからも聞いた。
準備で訪れたとき、病院で出会った少女。
半年後に訪ねると、亡くなっていたり。
事故から25年も経った今でも、原発からは放射能が出ていて
近づくには特別の許可がいる。
近隣にある3000近い街に住んでいた市民は皆、退避。
死の街となっている。それがチェルノブイリの現実。
福島で放出されたセシュウムは多少、少ないとはいえ。
日本でもチェルノブイリと同じ過酷な現実を迎える可能性は極めて高い。
福島を中心に、汚染された地区に住む子供たちが
次々に病気にかかり死んで行く。
産まれて来た子供たちの85%に何らかの問題がある。
そんな悲しすぎる日が訪れるのだ。
今にして思えば、事故直後に枝野官房長官が言った言葉
”ただちに健康に被害はありません”
あれは、まさしく、言葉通り。被曝しても直ちに影響はないが
5年、10年後に取り返しのできない事態になる!
そんな意味だったのだ。
(つづく)
なぜ、政府は本当のことを言わないか? [●「朝日のあたる家」序章 2012]
2011年 夏
”青い青い空”東京公開後。過労でダウン。自宅入院状態となった。
そんな中、興味を持った原発事故。
リハビリを兼ねて勉強を始めた。
事故当時の新聞、雑誌、専門家が書いた本、テレビ報道、ネット・・。
と、できる範囲で情報を集めた。
それで分かったこと。驚愕すべきことばかりだった。
まず、何より日本の原発がチェルノブイリと同じように、事故を起こしたこと
衝撃だった。
人間が作ったものだから、自然災害に勝てる訳はない
地震や津波で大きな被害が出るのは当然なのだが、
日本の原発は様々な対応策が取られているから
チェルノブイリやスリーマイルズ島のような事故にはならない。
いろんなメディアを通して、日本の原発は安全だ。事故などありえない!
そう言われて、一抹の不安はあっても、それを信じていたのだが。
実際に事故が起き、大きな爆発まで起こした。
日本の原発でも事故が起きる・・。
SF映画やパニック映画ではなく、現実であること。
感じた。
しかし、1日寝たきり状態だった事故当時。
テレビニュースを見ていて、”単なる水素爆発です。放射能は含まれていません”
と専門家が説明し、政府も
”ただちに健康被害はありません”
と繰り返す。ああ、日本の原発事故はさほど酷いものではなかったのだな。
そう思い、安堵していた。
ところが、新聞を調べると、どこも一面トップ。
爆発事故を中継で見ていたとき、専門家が緊張感も焦りもなく
”単なる水素爆発ですねー”
と言っていたのとは違って、もの凄く大変なことが起きたのだ。
さらに、その爆発で放射能が飛散したこと。東京にまで飛んで来たこと。
テレビ報道では伝えていない。
新聞を読んでも、よく読まないと分からない状態。
雑誌だけが、センセーショナルに書き立てていた。
どちらが本当なのか?
その後、各地でどんどんと放射能が検出される。
ということは、爆発で放射能は出ていたということなのだ。
それを政府もマスコミも黙っていたのである。
(つづく)
映画監督はふと興味を持つところから始める [●「朝日のあたる家」序章 2012]
2011年 夏
アメリカでも有名な伊丹十三監督。
デビュー作”お葬式”が大ヒット。
でも、収益のほとんどを税金で持って行かれてしまい大ショック。
”税金って、どうなってるんだ?”
というところから、興味を持ち、国税庁査察部に行きつく。
それが”マルサの女”となり、またまた大ヒット。
そんなふうに、監督自身が興味を持ったものが映画として形になること
ときどきある。
監督というのは映画会社から依頼されて、映画を撮ることが多いが、
興味のない題材を扱っていては、良い作品はできない。
80年代。人気作家の原作を映画化した青春ものがあった。
映画を見ると、主人公である男の子のシーンはダラダラしているのに
もう一人の主役とも言える中年男のシーンになると、急に力がはいる。
手を抜いている訳ではないのだろうけど、
その監督はかなりお年で、若者に興味がないのだ。
それより自身に年齢の近い中年男に共感。
そのために物語が壊れ、酷い作品になっていた。
やっぱり、監督が興味のないことをやると、こうなってしまうのだ。
だから、映画にする。しない。に関わらず興味があれば
調べることにしている。
以前、精神分裂病。今でいう統合失調症に興味を持ち。いろいろと勉強した。
ついでに、躁鬱病や虚言癖。人格障害のことも調べた。
意外な事実が分かってきたり、長年の謎が解けたりして面白い。
そんな中、最近気になっていたのが・・原発事故だ・・。
(つづく)
ツイッターで生死を確認 [●「朝日のあたる家」序章 2012]
2011 夏
映画が終わると、僕が倒れることを知っている友人たちもいる。
”過労というのは大変なこと。ひとつ間違ったら過労死。
もしかしたら、監督は自宅で死んでいるかもしれない”
実際、この夏に僕と同世代の映画人が2人も死んでいる。
関係者が自宅を訪ねて、遺体を発見ということもあった。
”太田監督も死んでるんじゃないかな・・”
この監督ブログが連載中のときは、更新されれば生きていることが確認できた。
でも、ブログは終了。=> http://takafumiota08.blog.so-net.ne.jp/2011-05-08-14
訪ねて行き、寝込んでいたら申し訳ない。
友人たちは、僕が生きているかどうか?を確認する術を考えたという。
ネットで情報を探して、見つけたのがツイッター。
昨年の暮れから、”青い青い空”を宣伝するために、僕はツイッターをしていた。
これ=> http://twitter.com/#!/kiriyama99
映画公開が終わり、自宅入院状態になってからは
原発事故の勉強をして分かったことを書き込んでいた。
友人たちはそれを見つける。
”先日は1日1回の書き込みだったけど、今日は3回。少し元気になったな?
おお、今日は10回。かなり元気だな。
と思っていたら本日は0回・・・・死んだかな?
3日振りに書き込みだ。
よしよし、生きているぞ!”
そんなふうに、ツイッターをチェックしてくれていたという。
今となっては笑い話だが、そんな友人たちの存在。ありがたく思う。
(つづく)
過労を説明するのは難しい [●「朝日のあたる家」序章 2012]
2011年 夏
3ヶ月を越える自宅入院状態。
最初は寝たきりだったが、本当に少しずつ実感が伴わない速度で回復。
近所のスーパーや駅には行けるようになる。
が、この間。友人たちへの連絡はしなかった。
現状を知らせても、過労というものを理解してもらえないからだ。
”風邪ひいたんだ?” とか ”2、3日寝れば良くなるよ!”
必ず、そんな対応になる。
1ヶ月以上寝込んでいるといったら、心配するより不審がられる。
”大丈夫だよ!来週、飲みに行こう”
なんて言われる。
そんな体力はなく、電車で新宿まで行くなんてまだ無理。
これが骨を折ったとか、胃潰瘍だなら、理解してくれるが
過労というのはピンと来ないようだ。
”怠け病じゃないのか?”
”映画1本撮ったくらいで、そこまで疲れるか?”
とまでいう輩もいるので、説明していても、むなしくなることが多い。
逆に理解ある友人だと、過労は過労死に繋がる大変な症状。
連絡すると、凄く心配される。
それも申し訳ない。結局、誰にも連絡しない。
しかし、業界の友人にはこういう人もいる。
”監督は毎回、映画が終わると倒れる!”
連絡がない・・・、今度こそ死んだのではないか?
(つづく)
カリーナの林檎、チェルノブイリの森ー感想 [●「朝日のあたる家」序章 2012]
2011年 夏
試写会というのは、30分前になっても誰も来ていないということが多い。
それが先月、試写会で見た『カリーナの林檎~』
その時間ですでに8割のお客!
結果、補助椅子を出しても座り切れず、入れなかった人がかなりいた。
試写会でこんなことは稀。それだけ多くの人が関心を持っていること感じた。
舞台は旧ソ連。チェルノブイリ原発のある町。そこで生活する幼いカリーナ。
母が放射能のために病気になり入院。父は単身赴任。淋しい毎日を送っている。
そんなカリーナも放射能の影響を受け、命を削られて行く。
自然の風景がとても美しい。青い空。緑の森。冬の雪景色。
しかし、そこには少女カリーナの命を蝕む放射能が存在する。
あまりにも残酷。空が美しいほどに、湖が青いほどに、胸が痛む。
この映画が作られたのは福島原発の事故より何年も前だ。
まだ、テレビも新聞も原発批判は一切できない時代。
当然、どこの会社も製作費は出さない。
そんな時期なのにチェルノブイリの原発事故を扱った映画を作ろうと、
監督が自費で製作したのがこの映画だ。
幼い少女カリーナが放射能汚染で病気になり、やがて死んで行く。
無邪気な少女がなぜ死ななければならないか?
涙でスクリーンが霞む。
だが、これは外国の話ではない。5年後、10年後の日本の現実なのだ・・。
(11月18日から六本木シネマートで公開)
公式HP=>http://kalina-movie.com/