「乙女たちの沖縄戦」への批判コメント⑥ 「ドキュメンタリーがドラマ臭いんだよ」ー映画制作の方法論を知らない人たち。解説 [乙女たちの沖縄戦]
「乙女たちの沖縄戦」への批判コメント⑥ 映画制作の方法論を知らない人たち。解説ー終
このシリーズ好評なので、どこかに上から目線でおかしな批判しているコメントはないか?さらに探してみた。「つまらない!」というのも一つの感想であり、それは認める。そもそも沖縄戦に興味がない。戦争は映像で見るのも嫌という人もいる。
ただ、沖縄戦を知らず事実無根なことを信じて「違うぞ〜」というコメント。映画表現を理解せずに「***にした方がいい!」というのは明らかな間違い。知らないことを思い込みで批判してるだけ。その手のおかしなコメントを読み「いいね」している人もいる。それでは沖縄戦について誤った認識を持ってしまう。だから解説。最終回は映画表現について。批判コメントはこうだ。
「ドキュメンタリーパートとドラマパートに分かれいたけど、ドキュメンタリーパートがドラマ臭いんだよな〜。もっと普通に撮ればいいのによ〜」
日頃、ドキュメンタリー映画をあまり見ない方か?ドキュメンタリーと言ってもいろんなスタイルがある。「プロジェクトX」だってドキュメンタリー。「ゆきゆきて進軍」「はりぼて」「香川一区」も同様。皆、スタイルが違う。ドラマだってドキュメンタリータッチのドラマがある。その意味で今回の「乙女」はドラマタッチのドキュメンタリーにした。
「ドラマ臭い」のではなく「ドラマ仕立て」なのである。コメント主は週末の昼や深夜に放送されるドキュメンタリー番組あたりを「ドキュメンタリー」と思い込んでいるのだろう。あの種の番組は予算が低く、カメラマンを呼ぶ費用がなく、ディレクター自身がカメラを回していることも多い。当然、撮影は上手くない。ブレる画面。ピンボケ。被写体がフレームから外れる。だが、ドキュメンタリーなので視聴者は受け入れる。また、その手の不安定な撮影こそが「ドキュメンタリーだ」と思い込む人もいる。(コメント主もそんな1人だろう)
米国ドラマ「24」はまさにそんな手法を取り入れて、わざと不安定なカメラ、ピントが外れる。画面がブレるという方法論で撮影されている。そのことでドラマではなくドキュメンタリーを見ている気持ちにさせてリアリティを強く感じるのである。僕はその手法の逆をドキュメンタリーに取り入れた。
三脚でフィックスしたカメラ。ドラマのような美しいフレーム。ピンボケなんて作らない。もし、案内人が素人さんなら難しいが、女優さんだったので、何も言わなくてもフレームからはみ出したり、急に動き出したりせず、カメラレンズも見ないので可能だった。日曜昼のテレビドキュメンタリーと違い、映画撮影ができるカメラマンさん。ディレクターが撮影した訳ではない。彼女に密着しながらドラマと同じ丁寧な撮影をしたのである。
その意味は何か? 後半がドラマパートだからだ。前半で日曜午後のドキュメンタリー番組のような手ブレ、ピンボケ、暗い画面。といかにもドキュメンタリーという映像を見せられて、後半でいきなりカチッとした画面で、照明まで当てられた映像だどう思うか?前半と後半は完全な別物に思えてしまうだろう? いかにも作られたドラマを見ている気分にならないか?
そこでドキュメンタリーパートからドラマ仕立ての映像を見せることで、そのギャップをなくし、スムーズに橋渡しする。ドラマ部分がいかにもドラマと感じないように持って行く働きをしているのだ。そのためにもドキュメンタリーパートの撮影をドラマのように丁寧にし、見づらい画面を極力避けて、まるでドラマを見るような美しい画面で撮影したのである。
さらに解説すると、見づらい画面こそがドキュメンタリーということではない。先にも説明したが予算が少ない。時間がない。だから、あのようなブレブレの画面。ピント外れるような映像が多発するだけ。もちろん、決定的瞬間を取るためには画面の美しさにこだわれないこともあるが、金と時間をかければドキュメンタリーだって美しい画面で撮ることはできる。
それを知らずに「見づらい画面こそがドキュメンタリーであり、ドラマ臭い。もっと普通に撮ればいい」と指摘するコメント主さん。それは手抜きして撮影しろ!というのに等しい。そしてドラマ仕立てのドキュメンタリーパートだからこそ、再現ドラマにも違和感なく入れる。
それはカップラーメンしか食べたことない人が、手打ち麺を専門店で食べて「カップの味がしない」と批判するのに近い。あるいはカレーラーメンを食べて「カレー臭いんだよな」と不満を漏らすようなもの。「これ変」と思った時、自分が正しいと思わずに、自身をまず疑ってみることが大事。自分の知識は間違っていないか?自分は映画表現をどこまで知っているのか?なぜ、通常と違う表現を使ったのか? 考えることで視野も広くなるはずだ。
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