「日本の企業は金輪際、アジアの企業には勝てない！」孫社長が発言。 では、日本人には何が必要なのか？

今から３５年ほど前。僕が高校生のとき

「こんな授業に何の意味があるんだろう？」と考えていた。まさに暗記、暗記、暗記の勉強。英単語を覚える。年号を覚える。方程式を覚える。全て記憶力を試されるものばかり。

現代国語ですら、先生が「＊＊＊は＊＊＊＊＊ということを描いています」とか、生徒が考えるのではなく、教師が説明したことを覚えるだけ。英語だって、６年も勉強するのに、話せるようにならない。そんな勉強をして何になる？と思い出したら、バカらしくて、勉強する気がなくなった。

が、教師や大人たち。いや、同級生までもが、批判する。「太田は勉強して何になる？意味がないとかいうが、要は勉強したくないだけだろ？　勉強が嫌だから、そんなことを言って逃げいるだけだ！」そういわれた。教育システムが間違っているというと、こう指摘された。「お前は成績が悪いから、責任転嫁をしているだけ」「そんな奴を世間では落ち零れと言うんだよ！」

それでも疑問は消えず。僕は授業ではなく映画とレコードから

いろんなことを学び。日本の大学には行かず、アメリカの大学に進んだ。帰国後は会社に入社することは一度もなく、アルバイトを続けながら脚本を書き続け、今は映画監督の仕事をしている。

しかし、今、振り返ってみると、日本の教育システムはある意味で正しかったと思える。本来、教育というと子供の可能性を延ばすとか、自由な発想で考える力を育てるとか、いうものだが、日本の教育はそれが目的ではなかった。言われたことを文句言わずにやる。与えられた仕事をより高い精度でこなす能力が高い子供を育生するものだったのだ。

そう考えると理解できる。「考える」必要はない。「暗記」＝「覚える」与えられた通りにものごとを把握して実行する能力。僕のように「それは無意味だ」なんて疑問は持たない大人を育てることこそが、目的だったのだろう。そんな優秀な人たち。企業は使いやすい。英語や数学の代わりに、仕事を与え、それに文句を言わず、確実にこなしていく。そんな優秀なロボット人間のような存在を求めていた。だから、学校ではそんなタイプの人間を育てていたのである。


実際、優秀なロボット人間たちは、

文句も言わず、優秀な成績を上げ、日本の企業は躍進。ジャパン・アズ・ナンバー１と呼ばれるようになり、バブル景気で金持ちの国となった。その意味であの「教育」は正解だったのだ。大人たちのいうように僕は落ち零れだったのである。が、それから３５年ほど経った現代。こんな発言をする人が出て来た。

「日本の企業は金輪際、アジアの企業には勝てない！　なぜなら、日本の教育は暗記が７割。考える３割。これからは考えるを７割にしないと日本は駄目だ」

そんな発言をしたのはソフトバンクの孫社長だ。

というのも、今、世界を席巻した日本の電気機械産業は韓国に抜かれた。バブル崩壊以降、不況が１０年以上も続き、大手企業がいくつも倒産。世界に誇ったSONYでさえ、巨額な赤字経営。

長年、尽くして来た企業から多くの人がリストラ。終身雇用は激減。先日は日立が年功序列の廃止を発表。ブラック企業が横行。深夜まで働いても、まともな生活が出来ない人たちが溢れている。そうなった原因は日本の企業が弱体化したこと。そのしわ寄せを社員に押し付けているんだ。その根本にあるのが教育問題と孫さんはいうのだ。

実は同じ考え方を僕の監督作「青い青い空」（2010）

で描いていたのだが、孫さんはさらに１歩進んで「考える」教育を７割にせねば日本はアジアで勝てないという。本当にその通りだ。与えられたことをこなすだけのロボット人間はもう必要ない。資源のない、人口も減り続けている日本で、やれることは「考える」こと。なのに「考える」教育を十分に受けていないので、日本が衰退して来たというのだ。

しかし、古い教育はまだ効果を上げている。日本が間違った方向に進もうとしても、日本人の多くは気づかず、目先の生活や娯楽に執着している。企業は優遇され、個人が踏みつけられているのに、実感のない人がいる。福島が大変なことになっているのに、多くの人はもう収束したと思い込む。「考える」教育を軽んじて来た効果が出ている。大多数がそれに気づかずにいることが都合のいい人たちもいるのだ。

でも、それでは孫さんのいうようにアジアの負け組になるだけだ。一部の金持ちと大多数の貧困層。何だか近所の国と同じではないか？　僕の映画のテーマは「子供たちに伝える大切なこと」今、子供たちに必要なのは、まさに「考える」教育ではないか？　与えられたことを確実にこなす人間ロボットになることではなく。自分の頭で考えて行動できる子。次の時代を生き延びることができる力を育てることだと思える。