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低予算映画の戦い(下)=いかにして「素晴らしい作品」を作るか?発想の転換。 [映画業界物語]

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低予算映画の戦い=いかにして「素晴らしい作品」を作るか?発想の転換。

先に紹介したように、3千万という低予算映画でも、実際に映画に使えるのは2千万弱である。そうしないと製作会社は存続できない。社員や社員の家族が生活が成り立たない。1千万を超える手数料を取ることもやむなし。と思えるが、映画製作ー「より良い映画を作る」という観点から考えると、その1千万あれば、いろんなことができる。クオリティが上がる!と思ってしまう。

僕は監督なので、どうしてもそちら側から見てしまい、ピンハネや中抜きをする会社を許せなかった。予算を下げ自社の利益を上げるためにスタッフを踏みつけるPや社長。撮影が終わってから「赤字が出たので監督料。半分にして欲しい」というPもいた。「それはお前の責任だろ!」と言いたいが、彼らは決して自分のギャラは削らず。絶対に辞めない者にリスクを押し付ける。

監督料なし。約束の額が払われないこともあった。後輩からも、その手の話をよく聞くが、一番よく働いて、一番バカを見るのは監督であることが多い。どの監督も「この映画を撮りたい!」という熱い思いがあるので利用されやすい。僕も似たようなことが何度もあり、映画が完成して残るのは借金の山だけだった。が、耐えているだけでは何も変わらない。そんな環境にいては「より良い映画は作れない」考えた。

昔、読んだ矢沢永吉の本。彼が契約したレコード会社は通常以上にバンドを縛り、ギャラもピンハネ。立場も弱かった。会社により良い歌を作ろうという思いはなく、儲かればなんでもいいという姿勢。最初は単なるロック小僧だった矢沢だが、そんな不満を抱え、あれこれ勉強、権利や立場を取り戻して行く。単にアーティストとして歌うだけでなく、プロデュースも担当。やがて興行を取り仕切るようになる。そのことでより良いアルバムを、ライブをできるようにした。という話を思い出す。

映画を監督してから、あれこれ勉強。制作費の使い道、流れ、儲け、利率。権利。著作権。慣習。あれこれ誤魔化している会社が多いことが分かる。誤魔化しどころか、えげつないところも多い。信頼していた人に裏切られ、騙された。全ての元凶は製作会社だ(彼らに事情があることは前回の記事で紹介した)そしてP。ただ、それらがないと映画は作れない。

それなら僕自身がやればいい。数本の映画であれこれ学んだ。ルーカスやスピルバーグだって監督でありpなのだ。ある作品から、監督、プロデュサー、脚本、編集を全て担当。さらに製作部がすべきロケハン。完成後の宣伝。1人7役をこなすようにした。

だが、ギャラは7人分もらわない。せいぜい2人分だ。そのことで5人分の人件費が節約。さらに製作会社を排除。これで30%(時にはそれ以上)もの手数料を取られずに済む。その分、僕が働けけばいい。節約した額は全て映画製作費につぎ込む。

製作会社の手数料というのは、事務所の家賃(都内の大きな街にに構えると月20万前後かかる)社員の人件費。光熱費。通信費。そして社長が家族を養うための給与等に使われる。でも、製作会社を入れなければ、その種の費用は必要ない。僕は自宅。社員はいない。打ち合わせは喫茶店。家族もいない。安アパートなので多額の収入も必要ない。先の例に従えば、1000万円浮かすことができる。つまり、制作費の全額を映画に注ぐことができる。

さらに、地方ロケ。地元から熱い支援応援を頂く、そのことで宿泊、食事、移動(車やバス)の協力をしてもらう。これも金額に換算すると1千万近くになる。こうして計算すると、通常の映画では例えば予算が3千万でも、2千万の作品(深夜ドラマクラス)しかできないのだが、僕のやり方だと4〜5千万クラスの映画を作れることになる。だから、俳優陣も毎回、豪華。

ただ、儲からない。製作会社ならすぐ倒産。だが、儲けるつもりはない。監督料はもらっているので最低限の生活はできる。贅沢をしようとか、家を買おうとか、外車に乗りたいという思いはない。素敵な映画を作ることが何より大切。これ矢沢的発想(彼の場合は儲かって億万長者になったが、映画界ではそうはいかない)ともう一つ。見習ったのは我が師匠・大林宣彦監督の方法論。

彼はPSCという会社を持っていたが、電話番の人が1人いるだけ。製作会社として監督作の手数料を取っていないかったのではないか? コピーするときも、すでにプリントアウトした用紙の裏を使い、徹底した節約。僕も仕事をさせてもらったことがあるが、巨匠とは思えない質素な事務所。打ち合わせの後に、その部屋のキッチンで料理してスタッフと夕食ということも。とにかく「制作費は映画のために使う!」そんな方針。

僕の場合も金儲けではない。会社を経営、都心に事務所を借りていて、社員もいれば高額の手数料を取る必要があるが、脱都会暮らし。だから3千万で作れば6千万。5千万で作れば1億相当の映画ができる。ただ、予算超過すると僕が借金を背負う。監督料がなくなる。毎回、7人分働くので完成後は過労で数ヶ月はダウン。

医者から毎回「過労死する前に休め!」と言われる。僕のスタイルをマネするバカはいない。なので紹介した。今回の記事もシェアしたり転載しないように。興味本位でしか読まない人には、読んでもらいたくない。映画作りは命がけの戦い。よろしく。


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