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黒澤明を目指した若者たち=100点満点を求めると自分の首を締める? [映画業界物語]

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黒澤明を目指した若者たち=100点満点を求めると自分の首を締める?

「世界のクロサワ」と呼ばれる黒澤明監督は「完璧主義者」として知られている。撮影で家が邪魔だと言って取り壊したり、俳優に日頃から着物を着せて生活させたり、スタジオ内の酸素がなくなるほど強力なライトを使ったり、都市伝説とも言えるエピソードが多い。

そんな黒澤監督に憧れた若者たちは、映画は「完璧主義」でなければいけない!と思い込んだ。が、10万円程度の製作費で作る学生映画で「完璧」などできるはずがない。妥協の連続でないと完成するできない。

僕が8ミリ映画を作った時もそれを痛感。50人のエキストラを集めたいが、来てくれたのは5人。それでは迫力は出ない。が、ギャラも払えない。飯も出せない。交通費もなしで1日付き合ってくれる友人は5人でもやっと....。スタッフである友人たち。映画学校の生徒の彼らはいう。「あーまた妥協した!」映画監督を目指す彼らはこういう。

「映画を作る以上、いい加減なものはできない。真剣にやる。10万円では俺のイメージを映像化できない。最低でも10億かかる。何より俺はプロを目指す。8ミリ映画なんて子供の遊びだ。16ミリでもダメだ。やはり35ミリか70ミリでないと! 俺は完璧主義だからな....」

てなことを言って学生映画を撮ろうとしなかった。そんな輩は多い。「戦前の中国を舞台にした超大作を作る!」とか「1950年代のアメリカを再現した暗黒街ものをやりたい」と大きな話をする。「俺は妥協しない。それなりの製作費が出ないとやるつもりはない」すでに気分は「クロサワ」だ。だが、黒澤だって最初から100点だった訳ではないのだが....

気づくことがある。まず、彼らは映画学校の学生。そんな連中に10億もの製作費を誰が出すというのか? 何の実績もない、学校の実習さえやったことがない若者に、映画会社が製作費を出さないことはすぐに分かる。次に、奇跡が起こり10億円が出ても、映画スタッフ経験もない。現場も知らない。演出をしたことのない若者に素晴らしい映画......いや、完成させることができるのか?

なのに彼らは「10億出せば撮ってやるよ。俺はできるんだよ!」と言い切る。例の「認めたくない。若さゆえの過ちを...」というやつ。経験がないからこそ言えることだ。この手のタイプは俳優の卵にも多い。演劇学校等で教えていても、真面目にレッスンをしない若者がいる。明らかに手抜き。注意すると「映画で役をくれたら、凄い芝居を見せますよ。ただ、俺は主役しかしませんけどね!」と言っていた。勘違いもここまで来ると凄いが、そんな若者は意外にいる。

先の学生たちも同じ。まず「俺は才能あるんだよ」「10億あれば凄いの作ってやるよ」という何の根拠もない自信。「飛行機事故にあっても俺は死なない」「コロナに私は感染しない」という思い込みと同じもの。多くの若者はそう思いがち。自分は特別。だから彼らは10万円の学生映画を作らない。「俺は完璧主義だから、そんな額ではやらねえんだよ」という。

ただ、これらの若者は結局、何もしないまま消えて行く。当然、映画会社からの依頼もなく、彼らからアプローチしない。「依頼があればやってやるよ」というばかり。高いプライド。「俺は第二のクロサワだ。完璧主義だ。妥協はしない。だから、学生映画はしない」「100点取らなきゃ意味がない」と思っている。結果、自分を高いところに置き縛ってしまう。俺は凄いんだから(本人が思うだけ)いずれ大手が認める。でも、何もしないから認められない。

やがて学生映画を作った友人が賞を取る。「あんなものを作ってるようじゃダメなんだよ」友人がプロデビューする。「どうせダメになるよ」別の友人がデビューする。でも、誰も自分を認めてくれない。その段で10万円の学生映画を始めるのはもう恥ずかしい。そうやって友人たちを否定するばかりで、何もせず。就職せねばならない年齢になる。僕の世代の映画監督志望たちのよくあるパターンだ。

最初から100点を求めた若者たち。「最初は30点でいいじゃん?」とは思わない。30点取るだけでも大変なことを知らないからだ。その繰り返しで得点を挙げて行く。なのに努力をしたことのない者は他人の点数を平気で踏みつける。似たような人たちを最近見た。

「現総理はダメだ。でも、石破もダメだ。野党もダメだ。だから俺は投票しない」100点取れる政治家がいないという意味だが、その結果、あの人を応援していることに気づいていない。30点の政治家でもいい。マイナス100点の現職よりずっといい。でも、100点取れる人を求める。映画も政治も1回勝負ではない。最初は30点、次に40点と進めばいい。だが、最初から100点を目指す人がいる。結果、どちらも自分の首を絞めているだけだということに気づかない。



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