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現実に潰されて反原発を蔑むようになった、ある女性の悲劇 [原発問題]

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現実に潰されて反原発を蔑むようになった、ある女性の悲劇

原発事故の悲劇を描いた映画「朝日のあたる家」公開時には全国各地の映画館で舞台挨拶をさせてもらった。現地には前日入り、チラシをバッグいっぱいに詰め込み、街に出る。店頭に貼る。店内に置かしてくれるところがないか訪ねて回る。すでに映画のことを知り応援してくれる人たちがいる街もあり、ある原発が近い街であちこちに連れてくれる方がいた。

「商店街にかなり以前から原発に反対している有名なおばさんがいます。ご紹介しますので行きませんか?」

是非是非。と連れてもらった。小さなお店。そこの奥さん。60代くらい。ただ、店に入り、その人を見た途端。何かヤバイものを感じた。応援団の方が紹介。

「こちらは原発事故の映画を作った太田監督です。明日から映画の上映が始まるので宣伝に来られました」

その奥さんの眼差しは冷たく。嘲笑するように僕を見ていた。そしてこう呟いた。「ふーーーん。そうなの....」この人は本当に原発反対なのか? 共感も賛同も喜びも示さない。それどころか「あんたも愚かだね〜」と言う見下した感じが伝わってくる。それも病的なものが...。説明をした。この映画を作った動機。企業が支援してくれないので市民から寄付を集めて作ったこと。山本太郎さんも出演していること。

だが、奥さんは薄ら笑いを浮かべるばかり。本当に原発に反対なのか?と言って推進派でもないようだ。チラシを見せると、一瞬目を向けただけで読もうとしない。そして「だったら、その辺でチラシ配って回ればいいのよ!」と僕の手から数枚のチラシをひったくると、店にいた2人組の主婦の元に歩み寄り「この人。映画監督で、原発の映画作ったんですって!」とチラシを渡した。主婦たちは怪訝そうな顔で受け取り、こちらを見る。明らかに困惑している。

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奥さんは戻って来て「その辺でチラシ撒きなさいよ。宣伝したいんでしょう?」と言う。「どうせ無駄よ」と言っているような口調だ。不穏な空気を感じたので、お礼を言って店を出た。連れて行ってくれた応援団の方も唖然。「原発反対で有名なおばさんと聞いていたのに...」と言う顔をしている。が、事情は理解できた。あのおばさんは元々原発反対だったのだろう。

彼女はいろんな活動をし、原発の危険性を訴えた。が、共鳴し、行動を共にする人はいなかったと想像する。原発が近い街は恩恵を受けている。反対はし辛い。彼女が声を上げることを不快に思う人たちも多いはず。嫌がらせをする。デマを振りまく。「あの店で買い物しない方がいい」「共産主義者だ」「頭がおかしい」地方ではムラ社会ルールが今も蔓延っている。

嫌がらせがあっても周りの人たちは見て見ぬ振りをする。奥さんは精神的に追い詰められる。店の売り上げも落ちる。友達は離れて行く。家族も誹謗中傷を受ける。子供から「お母さん。やめてよ」と言われる。そんなことが何年も続く。やがてこう考えるようになる。

「この街のために原発を反対したのに、子供たちの健康のために危険を伝えて来たのに。なぜ、私がこんな辛い目に遭わなければならないの......。分かった....巨大な原発ムラに個人がいくら声をあげても無駄なんだ。嫌な思いをするだけなんだ。東京ではデモしている人たちがいると聞くけど、世間知らずなのよ。どうせ原発は無くならない。デモなんかしても無駄。それに気づかないのは愚か。原発は国策。反対しても無駄。世の中そう言うものなのよ」

だから、僕が原発事故の映画を作ったと話した時、蔑むような目で見ていたのだ。「ここにも1人。バカがいた.....」そう感じたのだ。「どうせ無駄なのに...」奥さんは原発反対の署名活動などもしたことがあるだろう。だが、わずかな署名しか集まらず失望したこともあるのではないか? 

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だから、チラシを奪い取り店の客に渡した。「ホラ、この人たちも興味を示さないでしょう? 映画なんて観に行かないわよ。街でチラシを配れば、誰も関心を示さないことを痛感するわよ。あんたも無駄なことをしていることに気づくはずよ」そう言う意味だったと思える。

応援団の人もいう。「昔はあんな風じゃなかったんですけど...」でも、街の心ない人たちが寄って集って彼女を批判し、侮辱し、嫌がらせをして、歪めてしまったのだ。金で苦労した人が「世の中金なんだよ」と思い込む。希望する会社に入れなかった若者が「世の中コネなんだ...」と思い込むことがあるように、人は打ちのめされると間違った現実を受け入れ、肯定してしまう。

努力をやめ、世間を恨みながら、理想を掲げる人を見つけると否定せずにいられない。「愚かな人。現実が見えていないのね」と...。かつては反原発を訴えた彼女、今は推進派の応援をしているようなもの。悲しいが、そんな人たちとも、あちこちで出会った。



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