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ロケ地を好きなるーそこから素晴らしい映画が誕生する。 [映画業界物語]

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【ロケ地を好きなるーそこから素晴らしい映画が誕生する】

東京や大阪のような都会を舞台に映画撮影をしたことはない。大学時代をアメリカで過ごしたときに、日本の地方がいかに美しいか?世界的に見ても貴重だと痛感。そんなことがあり、もっぱら地方を舞台にして映画を撮っている。

が、単に地方を舞台にすればいいというものではない。まず、その町を知ることからスタートする。ロケハンということではない。撮影をしない場所であっても、その町のいろんなところに行ってみる。とにかく歩く。今日は西に向かってひたすらまっすぐ歩く。翌日は東。そして、地元の食堂や喫茶店に入る。地元名物だけでなく、地元の人々が日頃どんなものを食べているか?同じものを食べみる。

もちろん観光地も行くが、観光客が行かない住宅街や工場地帯。裏道。商店街。川、海、池。とにかく歩いてまわる。そうすると、素敵な場所と出会う。それは古い廃墟かもしれない。地味な路地かもしれない。でも、観光地にはない、美しい佇まいを見つけることができる。

次に歴史。町のヒストリーを勉強する。社会科の授業ではない。その町に以前あった映画館はどこにあり、どんな映画を上映していたか? ホールはどこにあり、どんな歌手がコンサートをしたか?も調べてみる。スーパーマーケットは? 大手の百貨店は? バブルで作られたもの。なくなったもの。現代だけでなく、過去も知ることで町の輪郭が見えて来る。

そして地元の人と話す。どんな生活をし、どんな言葉で話し、どんなものを食べ、どこで酒を飲むか? 若い人は学校を出るとどこに行くのか? 戦争中はどうだったのか? いろんなことを聞いていると、さらに町が身近に感じるようになる。

いろんなことを知ると、その町が好きなる。そこが大事なところ。好きでない町で映画を作っても、素敵な作品にはならない。俳優と同じ。その俳優がいかに有名であっても、好きになれないと、映画の中でその俳優は輝かない。同じように、舞台となる町も好きになることが輝く。だから、まず、知ること。そして好きになることがとても大事。どこで撮影するか?はそのあとで構わない。

通常の企業映画ではここまでしない。ロケする町はたいてい有名な観光地。そこに製作部が行き、シナリオに書かれた場所に近い撮影に相応しい場所を探す。メインロケハンで監督が同行。その場所を確認。OKを出す。監督がその町を次に訪れるのは、撮影時。たった2回しか行かない。ロケ場所以外は行かない。当然、町のことを知る機会はない。地元の人の交流もほとんどない。

それが通常の映画。だから、映画の中に美しい風景のシーン出て来ても、それは美しいだけであり「愛」はない。観光地で売られている絵はがきのようなもの。心に残らない。本当にその町が好きで、愛がある人がその町を撮れば、美しいだけでなく心に残る風景になる。でも、企業映画はそんな努力はしない。有名観光地の人気を利用して、見た目に綺麗な風景をちりばめただけで映画しか撮らない。町を好きになる努力や時間。費用を出すことはない。

でも、それでは町の魅力を映し出すことはできない。だから、僕はまず個人で町を訪れる。何度も何度も行く。そして先に書いたように、毎日歩き回り、町を知り、地元の人と交流し、地元のものを食べ、観光地以外やロケしない場所に行ってみる。そして町を知り、好きなった上で撮影に臨む。

その町の魅力をスタッフや俳優に話す。写真を見せ、映像を見せ、地元の食材を食べてもらう。そうやってスタッフ・キャストにも町を好きになってもらう。時間と予算が許す限り、メインスタッフを事前に地元に連れ行き、一緒に町を歩いてもらう。美味しいものを食べてもらう。高価なものではない、地元ならではの食事。町の人と話をしてもらう。酒を酌み交わしてもらう。そうすると、スタッフもその町が好きになる。

好きな町で撮影すると、「よーし、この町の魅力が溢れる作品にするぞー」と皆、がんばってくれる。いつしか、スタッフの中で、その町は故郷になっている。不思議なことにその町を好きなると、撮影時に町が微笑んでくれる。晴れのシーンでは晴れ。雨のシーンでは雨が降る。美しい夕陽を見せてくれる。青空を広げてくれる。いろんな面で映画を応援してくれるのだ。

そして、好きなった町で撮影した映画を観た人もまた、その町を好きになる。「素敵な町だなあ〜。一度、行ってみたい!」と思ってくれる。風景が心に残るだけでなく、町の魅力が溢れる作品になる。映画としてもクオリティが高くなる。なのに、企業映画はこれをやらない。メジャー映画の方が予算があり、規模も大きいのに、撮影以前の努力をしない。

だから、僕は企業映画はなるべく受けない。時間をかけて町を好きなることができないで、素敵な映画はできないからだ。もちろん、企業からドカンと制作費のでない低予算映画は大変。無駄使いせず、高速バスで地元を訪ね、ビジネスホテルに泊まり、食事代もなるべくかけない。町を何日も何週間も、何ヶ月もかけて勉強してもギャラは出ない。その上に他の仕事もできないので、生活は厳しくなる。映画が終わって残るのは借金だけ!ということも多い。でも、大事なのは町の魅力が溢れる素敵な映画を作ることだ。それが監督の仕事であり、僕のやり方なんだ。



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